ジョン・ルーリーといえば、1984年のジム・ジャームッシュ監督の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』で俳優として圧倒的な存在感を示し、私の周りでは『誰だ、こいつは?』という噂が一気に広まった。その直後に、本人が呼ぶところのフェイク・ジャズ・バンド「ラウンジ・リザーズ」も来日し、一部の熱狂的なファンを得るにはさほど時間がかからなかった。
難病を患ったあとの彼は、音楽も俳優活動も中止し、一人で好きな時に出来る絵を描くことが唯一残された表現方法になった。発表はしなかったが、80年代から、ジャン・ミッシェル・バスキアなどと一緒に描いていたというだけあって、その構図や技法は信頼できるものだ。
ルーリーの絵からは、伝統的な風景画のようなものであろうと、夢の中のワンシーンであろうと、いつも視点に、ジョン・ルーリー自身を強く感じることができる。日常の出来事が私たち人間に対してではなく、空に存在している何者かに向けて、絵日記のように描かれている。そこに戦略的な意図は、全く感じられない。ルーリーのネジ曲がったり、絡まった意識や思考でさえも、そのままストレートに私の心の中に入ってくる。
そんな彼の絵を見ていると、何故かつらいことや不条理なことが多い世の中だけど、きっといつの日にか、お金や名声、政治や経済、環境問題といった視点ではない不思議な風景や事柄に出会えると信じてみたくなる。
和多利浩一 (ワタリウム美術館)
会期:2010年1月30日[土] → 5月16日[日]
主催:ワタリウム美術館
休館日:月曜日 [3/22、5/3は開館]
大人1,000円 学生800円(25歳以下)(期間中、何度も使えるパスポート制)
ジョン・ルーリー略歴 John Lurie
1952年
アメリカ、ミネアポリス生まれ。
1978年
ギタリストのアート・リンゼイらと結成した「ラウンジ・リザーズ」のサックス奏者として登場する。
1980年代
ストレンジャー・ザン・パラダイス」(1984)、「ダウン・バイ・ロー」(1986)などジム・ジャームッシュ監督の映画に出演し、俳優として独特の存在感を発揮する。自らが監督、出演した釣り番組「フィッシング・ウィズ・ジョン」(1991)は、デニス・ホッパー、トム・ウェイツ、ウィレム・デフォー、マット・ディロンがゲスト出演し話題になる。
1990 年代後半
ライム病を患い、音楽、俳優活動を休止。
2004年より
Anton Kern Gallery(NY)などで、1980年代から描いていたドローイングを展示。
2006年
『ジョン・ルーリー: works on paper』P.S.1(NY)にて展覧会を開催。
近年、画家としてのジョン・ルーリーが広く知られることとなった。
looking 4 peace.